The Float

Nikki of タンザニア キリマンジャロ州 Oshara Secondary School と音楽その他

ノルウェイの森 -ジョンとロカンタン ムベヤ編-

全く見知らぬ土地でないと、よくものを考えることができないのはなぜだろう。

去年既にドドマとイリンガは訪れているためなのか、あまり考えることができなかった。今日は、ムベヤに行く。全く、見知らぬ土地。

 

 朝。宿のババアの話し声で起きる。この国には「配慮」なんて概念が存在すらしないなあ、とつくづく思う。まあ安宿のせいでもあるか。

キリマンジャロに住んでいるせいで、コーヒー中毒になってしまった僕は、旅先でもコーヒーが飲めるようにマキネッタと豆を持ってきている。コンドア、ドドマでは、宿にお願いして台所を貸してもらい、毎日コーヒーが飲めた。ただ、この安宿は炭を使っていて、まだ火おこしをしていなそうなため、今日はコーヒーも飲めないままバスに乗る。ああ眠い。

 

 

イリンガからマフィンガへ。

 規則正しく並べられた針葉樹は全校朝会に並ぶ小学生のようだった。木材加工が盛んなようだ。そして旧宗主国イギリスから受け継がれたchai(紅茶)文化の最メジャーである「chaibora」の生産州らしい。

 ここの紅茶はあまり匂いがしない。砂糖をドバドバいれることもあって、甘く温かいものを飲む欲求だけに応えている用に思える。どうでもいいがchaiと茶って発音が似ている。

 

8時間かけてムベヤについた。たぶん、アルーシャと同等か、それより上の規模である。また、雨が降ってきた。寒い。

 

 

翌日、機械を見にいく。溶接、切断、金属の折り曲げetc.

いくつもの機械が爆音で呼吸している。火花が散らばる。

機械は良い。何の感情も持たないからだ。二進法の思考で、0か1しか存在しない。曖昧な部分がないから、たとえ人間の指を真下に置いても正確に真っ二つに切り落とすだろう。ふっと、この思いは憧れに近いと気づく。

 

 

ムベヤの街から少し離れた丘に、ウテングレ農園というホテル兼コーヒー農園がある。

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 ここのコーヒーがおいしい。熱くて、濃くて、少し酸っぱい。キリマンジャロのコーヒーは、良いのが輸出されているからか、焙煎がうまくないのか、キリマンジャロのユニオンコーヒーよりムベヤのウテングレコーヒーのほうが美味しく感じる。なんだかんだキリマンジャロ州の都市モシは暑いから、寒いムベヤのほうが美味しく感じるのかもしれない。

 

 

 ビートルズのアンソロジーが置いてある。メシを待ってるあいだ、眺める。クオリーメンから解散まで。最後のページにジョンのインタビューが載っていた。

I don't believe in father figures any more, like God, Kennedy or Hitler. I'm no longer searching for a Guru. I'm no longer searching for anything. There is no search. There's no way to go. There's nothing. This is it. We'll probably carry on writing music forever.

 

 もうジョンの考え方は、プラスチック・オノ・バンドの「ジョンの魂」に近づいていって、ほぼ”God”の歌詞そのままだ。

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昨日ちょうど読み終わった「嘔吐」の表紙を眺める。

ああ、ジョンレノンもロカンタンと同じだ。ジョンレノンがサルトルに影響されていたのかどうかは知らない。ただ間違いなく世界に放り出された存在であることに気づいている。

真心ブラザーズの「拝啓、ジョン・レノン」じゃないけど、昔から、なんでこんな夢想家の現実見てないおっさんのことが、どうにも好きなのかわからなかった。言ってることは矛盾しているし、教祖みたいだし、ヒッピーだし。

 

ただ、今はなんとなくその理由がわかる。ジョンは実存主義者なんだ。

ロカンタンは、人生に意味なんてものはないと気づく。マロニエの根と同じ、存在しているだけと。ジョンも同じで、 心の底では、存在の全てが偶然の産物で、世の中に生きる意味など無いと感じている。

ただ、ジョンもロカンタンも、それをネガティブにとらえていない。生きる意味・目的から開放されて、自由という真っ暗闇に放り込まれていることに気づいても、自殺だとか、ダラダラと死まで生き続けることを選ばない。

その「幾分か死に似ている」自由のなかで、ロカンタンは、小説を書くことを選択し、ジョンは”carry on writing music forever”を選ぶ。彼らの選択に、まるで井戸に差し込む太陽のように光を感じるから、ジョンのことが好きなんだ。

 

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鬱蒼としたウテングレの森を歩く。ウォークマンで流れているのは、ビートルズのRubber Soul。中学二年のときに初めて買ったビートルズのアルバムだ。

 

ドライブ・マイ・カーの後にノルウェイの森が流れる。吐き気が、止まった。

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4日目、総移動距離1092km

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*本

ロカンタンについては

「嘔吐 新訳」J・P・サルトル著 鈴木道彦訳 人文書院

https://www.amazon.co.jp/%E5%98%94%E5%90%90-%E6%96%B0%E8%A8%B3-J-P-%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%AB/dp/4409130315/ref=pd_lpo_sbs_14_img_0?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=V92G9RZTY0SA1FC2X4FE