ブーヴィルにて。またはぼくらが旅に出る理由
誰にも知られない土地に行く必要があった。
知り合いと連絡を断ち、インターネットを捨て、ただ自分と話し合う時間が必要だった。
そういえば、「書を捨てよ町へ出よう」なんて寺山修司は言っていた。現代なら「インターネットを捨てよ街へ出よう」なんだろうか。今ならネットでどこにいっても孤独を紛らわすことができる。僕には、打ちのめしてくれるような孤独が必要で、ただあてもなく見知らぬ土地を歩いてみたかった。
恐らく、人生で最後の”若者”と呼ばれる時期の、目的のない旅になるだろう。ウディ・ガスリーの鉄道の旅ように、ゲバラのモータサイクルダイアリーのように、もしかしたら旅先で何かが起こって、永遠に自分を変えてしまうかもしれない。冒険。考えてみれば、それらの冒険への憧れは常に心にあった。イージーライダー、明日に向かって撃て、アイム・ノット・ゼアのディラン、ロードムービーのような冒険を夢見て。
見知らぬ土地に、一体なにがあるのか、自分がどう変わっていくのか、日記に書いておこう。「正確さ」が重要だ。なるべく正確に感じたことを文章にできるように。へんに美文を書こうなんて思っちゃいけない。ただ、正確に。
バスが来た。最初の行く先はコンドア。世界遺産のある街。